インタビュー&テキスト:
白泉社ヤングアニマル編集部・徳留幸輝
初出:ヤングアニマル2016年20号
―オンエアもついに始まり、読者の方々もアニメの第1話をご覧いただいたかと思いますが、まずは原作者である羽海野さんのアニメのご感想からお聞かせ下さい。
羽海野(以下、羽):自分の絵が色がついて、動き出している!と驚きました。このままず〜っと作ってもらえたらすごい幸せだなと思いました。
―最初に原作者の羽海野さんご自身も大満足のアニメという前提をお知らせさせていただきまして、いろいろ皆さんにはお話をうかがわせていただければと思います。キャストの方々の目線では、このアニメはいかがでしょうか。
河西(以下、河):冒険だなって思いましたね。一話の台本読んだ時点で、あれ、しゃべってないって。
井上(以下、井):贅沢ですよね、あのカットの使い方は。
―一番最初の零くんの夢の中の香子さんのインパクトある台詞の後、冒頭7分くらいは台詞がなかったですね。
井:あれは台本いただいたときに、びっくりしました。
河:びっくりしましたね。
―お二人でも驚かれましたか。
井:あの演出はある意味、チャレンジでしたよね。普通に考えたら、なかなかあの間を使おうという勇気はないと思うんですけど。そのあとにも『3月のライオン』ではああいう間を使う回はありますけど、ああいった間の使い方は、やっぱり原作がしっかりしていて物語性があって、かつ新房さんとシャフトさんの作る映像が、芸術的に見る人を飽きさせないものがあるからこそ出来ることですよね。普通、アニメでは怖くてなかなか出来ないことです。
羽:私、1話目を見たときに、最初の台詞がずっとないところは、漫画の元々の読者さんなら喜んでくれると思ったのと同時に、でも初見の人が途中でチャンネルを変えてしまったら、全部自分の責任だとも思いまして。アニメになってテレビに流れるということは考えずに、台詞のない1話目を描いてみたいって思ってやったことなので。だから、どうしようってなりました。それで12巻の書店ペーパーに、皆、おうちでお父さんがリモコンに手を伸ばしたら、そっとこの後ネコが出てくるらしいよ?ってとめて下さいと描きました(笑)。
―チャンネルをそのままにして下さったら、おいしいものも出てきますし、かわいい姉妹も出てきますし(笑)。でも、その台詞のない7分間が全く退屈じゃないんですよね。新房監督もそこに迷いはございませんでしたか。
羽:あのままやろうと思って下さったのは? 何か入れようと思いませんでしたか。別のところから始めるとか。
新房(以下、新):今までも自分達は、極端なものしかなかったといえば、なかったですから。逆にずっとしゃべりっぱなしとか。普通に作った作品というのがないので、ない自分達がやるならありかな、と。というか、あれがまず出来ないと、『3月のライオン』をアニメにしてもダメなんだろうなと思っていました。
羽:ものすごく地味なことをいっぱい積み上げないと成立しない漫画なので、飛び道具がなくてアニメにするのは大変だと思いますが、それをやって下さったので、とても嬉しいです。
新:モブシーンも滅多に作らないんですけれども。
羽:東京駅に人がいっぱい全員それぞれの方向に歩いている場面で、ごめんなさい、でも、ありがとう!ってなりました。
新:閉じこもっている少年が、あの人混みをくぐらないといけないんですよね。だから、しっかりやりたかったんです。僕も人混みは苦手だから分かる気がするんですけど、あの人込みをくぐらないと将棋会館には行けないわけですよね。決意して行かなきゃいけない。ある意味、出撃のシーンなんですよね。
羽:総武線に乗って、将棋会館に向かうときに、一回パンタグラフがパチンと火花が散って、ここで切り替わるんだなと思わされたんですけど、すごくシャフトさんっぽいなとも感じたんです。
―羽海野さんがすごく喜んでいらっしゃるのは、原作を丹念にアニメにしていただいていると同時に、ちゃんと新房さんとシャフトさんの作品になっているところですよね。
羽:ニュースを見ている零ちゃんが、ニュースの映像とさっき自分が負かしてしまった義理のお父さんをオーバーラップさせて思い出すシーンも、私が漫画で描いたときよりすごく迫力が出ていて。髪の毛が絡まるような演出が、すごくシャフトさんだと思って、怖いシーンですけどニコーッってなりました。
―1話はそういう場面もありつつ、笑えるシーンはちゃんと笑えるようになっていましたね。
羽:漫画だとギャグシーンも当然止まっている絵なんですが、アニメだと、たとえばひなちゃんが牛乳を温めてきてあげると台所に行こうとすると、そこの闇が光って、そのまますーっと吸い込まれていっちゃったりとか、アニメならではの演出になっているのに爆笑しました。あとは、ひなちゃんが少女マンガでおなじみの花を背負っている状態だったのが、そのままその花の中に突っ込んでいって、あの花はイメージじゃなくて実物だったのか!って、少女漫画のセオリーを逆手にとっている場面があったり。スタッフやキャストの方々がところどころそうやって遊んでくれている感じも、すごく嬉しかったです。