新:でも、現状で羽海野さんに見ていただいている(キャラデザの)絵も、とてもかわいいですよね。
羽:自分の絵にあまりにそっくりなので、まだ(アニメとして)動いてないから、自分の絵をそのまま見せてもらったような気持ちになって、かなりの衝撃を受けました。あまりに全てそっくりなので。これが動くなんて…すごい…!!と。
新:でも、なんとなく零くんの髪は動くような予感がします。
羽:動いてほしいです。
新:ぶわっとね。
羽:あんまり感情の発露のない子なので、
アシタカと同じで髪の毛の動きで表現を(笑)。なびく服をまったく着ていないし、シャツもインしちゃっているので、感情を表すことが出来ない。橋の上なら風が吹くけど、将棋会館は風は吹かないですし。
新:でもそういう、感情が出なかったキャラクターがだんだん出ていくようになるのが、いいんですよね。
羽:私が桐山くん恥ずかしかろうと思って、横顔で小っちゃく描いてあげていたシーンを、新房さんが(シナリオ会議で)顔アップにしましょうって(笑)。わー、大人ってひどいって思いました(笑)。男の人は同じ男の子に容赦がないなって。私は女の人なので、そういう所は無理に見たらかわいそうだから、見ないであげようと思ってロングで描いたのに。
―Chapter.28のまぶしい闇、零くんが島田八段に完敗して、将棋会館を飛び出すシーンですね。
新:その意図がすごく分かった分、でもここは見せなきゃだめだろうと。
羽:桐山くんのことを慮ってやったんですけど…。でも、お客さんは恥ずかしい顔を無理矢理見れたら、楽しいかもしれません。
―分かりやすさという意味でも。
新:やっぱり、みんな一緒になって、入り込んでほしいと思うので。
羽:私はいつも新房さんのアニメを見ていて、感じることがあるんです。アニメでも漫画でも2種類あって、窓の外の遠くで何かが行われているなあって思って見えるものと、目の前で起きてるなあって思うものがあって、新房さんの作品はどれを見ても目の前で起きているんですよ。遠くで何かやってるなあってアニメがある中で、新房さんのは顔の前まで来て台詞を言われているような気がして。自分の漫画はそういう風に感じてもらえるように努力して来たので、それが出来る人でないと、(アニメ化を)お願いしても、遠くで何かやっている描き方にされてしまったらつらいなと思っていました。
新:わざと客観的に突き放すときも当然ありますけども。
羽:相手の心に入っていきやすいものを作る方だと。気が付いたら食べさせられていたみたいな。それがすごいいいなと思うんです。どこでその違いが出てくるのかまでは、分からないんですけど。
アニプレックス・岩上敦宏プロデューサー:見る人を楽しませよう、感情移入させようとするものがありますよね、新房監督とシャフトさんの作品には。
羽:腕から先で作っているんじゃなくて、頭の内側から作っている感じ。ちゃんと脳からきている感じです。
―発表になって意外だと驚かれた方もいたかと思いますが、そういう意味では『3月のライオン』のアニメが新房監督・シャフトさんの制作というのは、必然性があるものだったんですね。
羽:羽海野さん、(自分の意思ではない)何かで決まっちゃったんじゃないかと思われないように、あのコメントの文章は私が好きなのよと伝えたくて、大人の事情でこうなってしまったと勘繰られないように、はっきりと伝えたくて書かせていただいたのです…。
―発表になって、今回のアニメ制作がどう決まったのかの経緯が気になる方も多いかと思いますが、まず第一に原作者の羽海野さんのたっての希望だったんですよね。
羽:そうです、そうなんです。
―その思いが新房監督の元にも届いて…。
新:届けてくれたのは岩上さんだったか、(シャフト代表取締役の)久保田さんだったか、(お話自体は)かなり前でしたね。
岩上:羽海野先生が『〈物語〉シリーズ』や『まどか』 を好きでいて下さっているというラブコールが我々に届き…という感じではありましたね。
―以前、羽海野さんが『囮物語』 のエンドカードを執筆なさったこともありました。