―ところで、久保田さんと岩上さんが逡巡なさった部分もありながら、『3月のライオン』をアニメにしたいと思った魅力は何でしょうか。
岩:確かに、アニメにするには難しい原作だと思うところもありました。本当に羽海野さんという強い作家性が作り上げたストーリーとかキャラクターとかバランスが、アニメのプロデュースワークでは作れないという感じがあるじゃないですか。ストーリーをただ追うだけじゃいけないし、絶妙な分量なので、そのさじ加減みたいなところをどうやっていくのかが、最初の課題だったと思うんです。でも改めて読んでみると、例えば、黒ベタになってイメージシーンみたいなものがインサートされて、縦書きと横書きの文字をポエムっぽく読ませるところとかは、すごくシャフトっぽくもあるなあと感じたんです。そういうところを、新房さんと久保田さんがいけそうだなって思ってくれたら、面白いことになりそうだという気はしていましたけどね。
久:僕の原作に関するイメージは、登場人物達がすごく戦う漫画だというのが強くて。キャラクターはティーンエイジの人もいるし、おじさん達もいるし、女性の姉妹たちもいるけど、みんなが戦って進んでいくドラマなのが、とても魅力的だと思っていました。反面、この分厚い戦いを、アクションの戦いではない、人が生きていく戦いっていうのをアニメにしていくのが、すごく困難なことだと…。
―魅力を感じて下さったからこその難しい。
久:そうですね。だから、それをどういう風にアニメにしていけるかは、キャラクターの造形や、新房さんの演出も含めて、僕が一番楽しみにしているところでもあります。どういう風に演出されていくのかは、本当にこれから皆さんにも、ご覧いただければ。
―これはもうちょっとくだけた質問になりますが、単純に久保田さんと岩上さんが好きなキャラとか好きなシーンも、うかがえますでしょうか。
岩:好きなキャラ…どの作品でも好きなキャラとか言い辛かったりするんですけどね(笑)。三月町と六月町じゃないですけど、将棋の部分と3姉妹とのエピソード、僕は両方とも好きなんですが、やっぱり島田対宗谷戦とか、ああいうところは男の子的には上がっちゃうなっていうのはありますよね。序盤では、あそこはすごく印象的でした。
久:僕も立場上言い辛いポジションなんですけど(笑)、後藤がすごく好きですね。
―久保田さんが後藤に惹かれる理由はなんでしょうか。
久:将棋を指している姿と香子と一緒にいる時と零くんに対するところと、いろんな顔を持っていますよね。すごく強い男で、悪い予感もさせて、まだ謎があって、原作の中で彼がどういう風に描かれていくのかなっていうのはすごい楽しみという意味でね。気になります。
友:僕はこのあいだ、別のインタビューで同じような質問されて、島田さんかなあと答えていました。(笑)
―同じ質問でも、回答が三者三様になるのが、『3月のライオン』という作品ならではという気がします。
友:ふと今、思い出したんだけど、糸井重里さんと羽海野さんが以前対談したことがあって、その時に糸井さんにも「(『3月のライオン』で)好きなキャラは?」って質問があったんだけど、「零くん」って答えたんだよね。もう60歳過ぎている方だけど糸井さんは零くんの目線になれるんだ!!と、その時に思って、そういう感想を言われるのは嬉しかったけど、驚いたなあ。
―自分と年齢の近いキャラとかじゃなく。
友:そうそう。そういうのはまったくなくって、そこがすげーなって思った。
岩:見習わないと。僕らどうしてもちょっとおじさん目線で、おじさんキャラに感情移入してしまうので(笑)。
友:僕も島田さんとか言っちゃって、あれっ?て感じだよ(笑)。
―シャフトさん、アニプレックスさんと、我々ヤングアニマル編集部と羽海野先生がお仕事させていただくのは、今回が初めてということになります。戸惑う部分なども少なからずありながら始まったわけですが、実際に現状はどうでしょうか。今までいろんな編集部や作家さんとも組んでやってこられていますが。
岩:白泉社さんのインタビューだからお世辞を言っているわけじゃなくて、本当に上手くいっていると思いますよ。白泉社さんも非常に協力的に臨んでくれていますし、あと羽海野先生も打ち合わせに一緒に同席してくれたりとか、新房さんと羽海野さんのコミュニケーションもすごく上手くいっていると思いますし。いろんな形がありますが、その中でも非常に円満にいっている作品だと感じていますよ。
―久保田さんからはどうでしょうか。
久:岩上さんの言うとおりで。シナリオ会議にも羽海野先生は何度も参加してくださって、ものすごく協力もいただいていて。家族的な雰囲気も感じさせてくださり、本当にありがたいです。
友:羽海野さんは、自分の好きなものを作っていた人達っていうのに限りないリスペクトがある人だから、そのへんが一番上手くいっている原因なのかとも思います。
―新房監督と久保田さんと岩上さんはまさに盟友だと思うのですが、羽海野さんと我々に対する評価といいますか、新房監督としても好感触と思って間違いないでしょうか。
久:上手くいきすぎてますよね(笑)。新房さんは羽海野さんを本当に好き過ぎている感じだから。
岩:上手くいきすぎです(笑)。
久:(2人は)似ているんじゃないですかね。
岩:そう思いますね。
―皆さんから見て、新房監督と羽海野さんは共通しているところがありますか。
久:羽海野さんはすごく新房さんと波長があってお話も弾むようなので、見ていてすごく微笑ましい感じですよね。共通するところがいっぱいクリエイティブなところを含めてあるんじゃないかなあ。
―羽海野さんの新房監督に対する尊敬の念は、『3月のライオン』のアニメを通して、お会いする以前よりさらに深まっていますよね。
岩:でも、新房さん独特のコンテ修正のあの絵は、やっぱり響くんですね。
久:新房さんの絵は説得力があるからね。デッサンがいいとか悪いとかじゃなくて、絵自体に力がすごくありますね。
友:僕が一番びっくりしたのは、新房さん、最初に会った時は、打ち合わせの後の飲みの席でのとにかくお酒好きな印象だったんだけど…。
久:それはそれで合ってます(笑)。
友:2回目の本読みの時に、新房さんが、こういう風にして、ここはこれを入れてっていうのを次々に言っていて、この人の頭の中は全部もう絵コンテで、映像で、頭の中に流れているんだと思って。それを見た時にただの酔っ払っている人ではない!って気づいた(笑)。
岩:他の作品と比べてというわけではありませんが、今回の脚本会議はまた特に、新房監督は熱が入っている感じはありましたけどね。