3月のライオン

Interview4 多くの人に、長い話数で

―先ほど岩上さんからシャフトさんは深夜アニメカルチャーを担ってきたというお話がありましたが、今回のアニメはNHK総合テレビでの放送ということも、読者の人達にはシャフトさんが制作ということと同じくらい驚かれました。
:これはね、最初の方で、各テレビ局、いろんな会社からいいお話をいっぱいいただいたって言ったけど、その中の1人にNHKエンタープライズのプロデューサーの野島さんという方がいて、ずっと僕のところに来てくれていたんですよ。

―6年ぐらい前ですかね。
:そうそう。でも、シャフト×新房監督の制作でという条件を伝えると、みんな「ああ、それはやっぱちょっとうちでは無理です」っていう感じになって、引いちゃったんだけど。

―まあ、実際オファーしても、シャフトさん自身もお引き受けいただくまでかなり熟考なさったくらいですから、各社さんがオファーする前にそういう反応を示されるのも無理からぬことかもしれません。
:でも、NHKエンタープライズの野島さんは「じゃあ、もう連載が終わった後でもいいので、やらせていただきたい」っていう話をしてくれて、ずっと僕のところに通ってくれていたのね。それで、岩上さん、久保田さんと話がまとまって、シャフトさんとアニプレックスさんでアニメ自体はやるっていう話になった時に…。

―どこの局で放送するのか、テレビじゃなくて劇場映画かもしれないけど、3社で『3月のライオン』をアニメには必ずしようと、コンセンサスがとれた頃ですね。
:NHKエンタープライズの野島さんに、「アニメ化に関しての話はもう僕が窓口じゃなくて、岩上さんと話をして欲しい」って言ったのね。僕としてはやっぱり野島さんはこんなに長い間頑張ってくれたし、もしNHK総合とかに決まるようであれば、作品にとって非常に良いことになるから、窓口を岩上さんにお願いしたのよ。それから、野島さんは岩上さんのところに行って、何回か話をしているうちに…、決まってね。
:そうでしたね。これだけの大ヒット作品なので、とにかく多くの人に見て欲しいっていう気持ちがあったので、ぴったりですよね。NHKだったら、日本全国で見ていただけるので。
:同じ時間帯に、それこそ波照間島でも映るわけだから。羽海野さんもとても喜んでいるよね。

▲テレビ棋戦のNHK杯もありますし

―こないだ、『ハチクロ』のアニメ化のときは福岡とか視聴出来なかった地域もあったという話を、羽海野さんともしましたね。シャフトさんとしてもそうでしょうか。
:やっぱり、僕らは結局、作ったものをより多くの人に見てもらっていたいっていう思いで作っているので、そういうことに関しては素直に嬉しく思いますね。 
:わかる人だけにわかってもらえればいい的な価値観も今はあるけど、自分の作ったものをできるだけ多くの人に見てもらいたいっていうのは、そもそもやっぱりクリエイティブの原点だと思います。

―ちょうどそういう話題も出たところで…僭越ながら私から発表させていただきますが、アニメは全22話で放送されます! 関係者一同、多くの人に、そして長いあいだ楽しんでいただける作品作りをしております! 当然12話で3か月とかより倍になる分、制作の負担みたいなものは各社増えますが、何故22話でやっていこうと思ったのか、どなたが音頭を取ったのか、そのあたりは皆さんからお聞かせいただけますか。
:こちらからまず、それでやって欲しいってお願いしました。原作も長いからね。それが変則になるのか、続けてになるのかは岩上さんにお任せしていたけど。
:原作の内容からしても、やっぱりテレビアニメにするなら、最低この話数は必要ですよねっていう感じでは、僕も当初からいました。

―では、それはもう皆さんの共通認識に近かったわけですね。
:加えて、シナリオ会議が始まってみて、やっぱり1話に対する情報量がすごく多い作品ということを改めて気づかされましたから。1話の中にいろんな大事なものが詰め込まれてるっていう風に思いましたよね。
:要は、原作の将棋の部分と川本家との部分という2つのパートを、どういう形で脚本に、さっき言ったさじ加減みたいなところをきちんと落とし込むかどうかっていうところで、そのやりようによって、22話でもその半分の話数でも作品の流れは変わってくると思うんですけど。でも、最初の脚本会議で決めたのは、本当にもう原作に真っ向から取り組むということでした。この両方をそのままアニメに落とし込もうと今しているので、そういう意味でもこの話数はなければという感じの内容にはなっていますよね。

―原作に誠実なアニメ化への取り組みの答えの1つとして、この話数なんですね。そういった取り組みの中で、新房監督やシャフトのスタッフの方々のご様子はいかがでしょうか。やはり、皆さんにとってこれまでとは違う課題や試みもあったのでしょうか。
:やっぱり、新房さんも、シャフトの皆さんもそうですけど、原作に合わせて、この原作を面白いと思って、原作読者はこう感じているよね、みたいなところをすごく真剣に考えてくれていると思うんですよね。でも、羽海野さんの絵の説得力をどうアニメで再現するかっていう課題もあったと思うんですけど、最初のキービジュアルの、杉山さんのあの絵と、あとあの独特の背景の色使いと処理みたいなのを見た時に、すごいなって改めて思いましたね。絵作りというか、目指している方向がすごいなと。
:僕らはタイトルによって、挑んでいくところ、テーマが変わってくるのですが、特に『3月のライオン』は、やはり我々としては、今までと違う形の手法で取り組まなければいけないとははっきり思いました。またこれまでと違う筋肉を使わなきゃいけないなという感じですかね。さっき言ったように人が戦っていくドラマを、丁寧に描かなければいけないこと。設定にリアリティが必要なこと。それを動かしていくっていうことは非常にタフなことだと思っているので、そこがまず1つ、新しい試みでした。羽海野さんのキャラクターをまずは1回キービジュアルという形で出させてもらいましたけど、実はあそこもすごく試行錯誤をしていて、僕らの中でも、何度か揉んで揉んで、あの形に持っていったので、そういった意味では、羽海野さんの原作に対する僕らなりの解答というのが、1つは出せたかなあとは思っています。

―その分、皆さんには違うところが筋肉痛になるような感じも、やはりありますか。
:確かに、新房さんの立ち位置としてもね、今までと違った形のアプローチを作品に対してしなければいけないっていうのは、ハードな仕事にはなっていると思います。それはそれで有意義ということで楽しんでいますけれども。新房さん筆頭に、スタッフには刺激的な作品だという風に、僕は捉えています。

▲すべては原作と世界観を合わせるために

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